鹿の角で膠をつくる

テオフィルスに次のような文章がある。

生皮および牡鹿の角の膠について
これが注意深く乾かされたならば、同じ生皮の同様に乾かされた切片をとり、こまかく刻め。そして鍛工の鎚で鉄床の上でこなごなに砕かれた牡鹿の角をとり、新しい壺の中にその半ばになるまで(刻んだ生皮と)配合し、それを水で満たせ。こうして、しかし少なくとも沸騰しないようにしながら、その水の三分の一が煮つめられるまで、火にかけよ。そして汝は次のように試せ。即ち汝の指をこの水で濡らし、指が冷えた時、もし粘着するならば、膠はよい。しかしもしそうでなければ、〔指が〕互いに粘着するまで煮よ。その上でこの膠をきれいな容器に注ぎ、そして再び壺に水を満たして前のように煮よ。このように汝は四度まで続けよ。

『さまざまの技能について』中央公論美術出版より

動物の皮や骨で膠ができるのは、普通に理解できるとして、角はどうなんだろうかと思って試してみました。鹿の角が手に入らず、なぜか羊の角が手元にあったので、まずは羊の角で試してみることに。

「鍛工の鎚で鉄床の上でこなごなに砕かれた」とあるが、そんなことできるのだろうか。羊の角は、巨大ハンマーを振り下ろしても傷一つ付かなかったので、カンナのような削り道具を使って、削り節状態にした。

細かく削り落としました。

グリル鍋で数時間にわたり粘り強く煮たのだが、膠らしきものは全く得られず。写真は冷えた状態であるけれども、ゼリー状になることもなく、ただの水のままだった。テオフィルスの言う「指が冷えた時、もし粘着するならば、膠はよい」という状況にはならなかった。この羊の角はどう見ても角質で出来ているとしか思えず、最初に見たときからあまり期待はできなかった。

ネットオークションで鹿の角を入手した。

切断面を見ると、なんとなくこれはただの角質の角では無くて、骨っぽい感じがあるので期待でそうな気がした。

しかしこれ、非常に丈夫なうえに弾力性があるので、とても砕いたりできそうなかったので、電動ノコギリで細かく切断した。鹿の角を切ると、獣が焼ける臭いがくる。

輪切りにした鹿の角をグリル鍋で煮る。

温度が上がると同時に、膠臭がしてきて、さらに膠色のもやっとしたものが湯の中ににじみ出してきた。

2時間ほど煮て、ほぼ水がなくなってきたところで、ガーゼで濾して別容器に移したが、これはぱっと見て完全に膠でアル。

顔料に添加して塗布してみたが、無事に定着している。

しっかりゼリー化している。

英語では鹿のような角をアントラー、牛や羊のような角はホーンと呼ぶそうで、日本語では同じ「角」でも、だいぶ別種のものだったのかもしれない。

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