ブラックオイルの作り方

鉛白を加え、煮て作るオイルで、ブラックオイルと呼ばれるように、真っ黒いオイルができる。ブラックオイルは極めて乾燥が速く、丈夫な皮膜を作る。見た目は漆黒だが、透明度があり、絵具に混ぜて画面に塗布する際には、さほど気にならない。ただし、乾燥するに従って、色調が暗くなる傾向があり、ときにかなり脂っぽい色になる。日本では、J・シェパードの『巨匠に学ぶ絵画技法』により、広く知られるようになったかと思うが、以下は同書の方法を参考にしつつ、わかりやすすくアレンジしてみた。

■材料と道具
リンシードオイル(その他の乾性油)、鉛白顔料(シルバーホワイト顔料)
加熱器具(カセットコンロ等)、耐熱ビーカー、石綿(またはセラミック)金網、空瓶、温度計

鉛白顔料はチューブ絵具のシルバーホワイトでも代用できるが、ジンクホワイトなど他の顔料が混ざっていることがあるので、顔料を使った方がよいだろう。リサージ(一酸化鉛)が使われることもある。リサージは試薬として薬局などで注文できるが、メーカーに滅多に在庫がない。器は実験用の耐熱ビーカーが中の状態を確認しやすくて便利だが、磁器やホウロウの鍋など熱に強いものなら何でもよい。作業中にオイルを加熱し過ぎて吹きこぼれると危ないので、大きめのものがいい。消火器も手元においておく。いざというとき高温の油に水をかけるのは危険な行為である。温度計は天ぷら料理用温度計がよいかと思う。

耐熱ビーカー等の器にリンシード油と鉛白顔料を入れる。鉛白顔料は重量比にしてオイルの5%程度が目安(100gのオイルの場合、5gの鉛白)。写真の例では、300mlビーカーに乾性油180g、鉛白顔料9gを入れている。木のヘラか割り箸などで、それをよくかき混ぜておく。下に鉛白顔料がたまっている場合は、それが満遍なく広がるまでかき混ぜる。しっかりかき混ぜると、牛乳かヨーグルトのような感じになる(サンシックンド油など、濃い色の油を使用した場合はミルクティー色)。

以降の作業は、作業中の臭いがキツイので、建物の陰や、ガレージなどに移動して行なうことをお勧めする。コンロに金網、石綿を載せ、その上でビーカーを加熱する。ビーカーが倒れたり、中身があふれたりしないように、くれぐれも注意する。底が焦げないようにかき混ぜながら、徐々に火を強めてゆく。180℃前後に熱していると、徐々に褐色の色が付き、15分ぐらいで、カフェオレのような色になる。そのままの温度を維持させていると、やがてブラックコーヒーのような漆黒になる。J・シェパードは、コーヒー色になった後もさらに1時間火にかけておくように指示している。

加熱の工程を終えたら、ある程度冷めるのを待ち、生ぬるいくらいのときに、保存用の容器に移し替える(熱い状態の油を突然注ぐと、ガラス容器の場合、割れる危険がある)。その際、容器の口に輪ゴムでガーゼなどをつけて漉しながら注ぐと、ゴミや、焦げた欠片などを排除することができる(屋外でやるとたまにゴミが入る)。容器には、使用したオイルと、日付などのデータをラベルにして貼っておく。棚に保管してしばらく経つと、瓶底に溶けきらなかった鉛白が沈殿することがあるが、それはそのままにして上のオイルの部分だけを使う。ただし、べつに混ぜ合わせて使ってもかまわない。多少、白っぽくなるが、絵具と混ぜれば、その程度の鉛白顔料が色調に影響を与えることはない。

乾性油によっていは、カフェオレ色からブラックコーヒー色に変化するまで、けっこう時間がかかることがあるが、そのようなとき、ダンマル樹脂をひとかけら入れていると、なぜか短時間で済むことがある。何故なのかは全くわからないが、今のところ使用上の問題は起っていない。

ブラックオイルは、短時間で上塗りの絵具を弾くほど速く乾燥する。もし上塗りの絵具が弾かれてしまうという場合は、ルツーセ(加筆用ワニス)を塗布するとよい。しかし、この油を単体で描画用メディウムにするのは、癖が強すぎると思う。調合油の成分の1つとして使った方がよいかと思う。乾性油に対する鉛白の量は、重量比にして5~10%ぐらいの間で調整されうる。画用液としてそのまま絵具に加えて使用するだけなら5%に留めないと使いづらいが、メディウムの材料のごく一部として使用する場合はもっと多くてもいい。

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