白亜地(吸収性地)

「白亜地」は、白亜(炭酸カルシウム)と膠液等の媒材を混ぜて作る地塗りで、油性地や半油性地と比較すると、地が絵具のバインダーを吸い込む性質があり、「吸収性の地」と言える。この地塗りはテンペラから油彩までさまざま技法の地塗りとして使用することができる。

道具類はビーカー、刷毛、篩(ふるい)、膠の湯煎に必要な道具(温度計、ぼろ布、カセットコンロ、鍋)等を用意。本項では地塗りについてのみ解説しているので、支持体は「パネルの準備」または「キャンバスの準備」を参考に予め作成しておく。

地塗りの材料となる顔料は下の配合例を参考に用意する。

材料名
膠液1.5150g
天然白亜(ムードン)1.5150g
チタン白顔料0.550g
0.550g

白亜(炭酸カルシウム)は画材店で購入できる。国内メーカーの製品はムードンという名称で売られており、「下地用」と「仕上げ用」がある。好みの問題であるが、チタン白を加えるなら、下地用だけいいように思う。

「膠液の作り方」を参考にしながら、膠液(膠1に対し、水10)を用意し、ビーカーに処方に従った量を入れる。

膠液に顔料を少しずつ振り入れる。膠液の中に顔料の小山が築かれていくのが見える。あせって一気に入れてしまったりせず、落ち着いて少しずつ入れる。すべて入れ終わったら、2~3分放置して、顔料と膠液が馴染んでゆくのを見守る。膠液と顔料が馴染むのを待たずにかき混ぜると、気泡やダマの原因になる。

その後、ゆっくりと満遍なく混ぜ合わせる。顔料と膠液がよく馴染んでいれば、それほどいきおいよく撹拌する必要はない。もし粘度が高すぎて塗りにくいようであれば、最後に(処方に載っているような)少量の水を加えて粘度を調節する。

膠引きしたキャンバス、麻布を貼った板等の支持体に塗布する。一層目の塗料は、思い通りに塗れないことが多い。特に目の詰まっていない画布に塗る場合や、膠引きが不十分だとピンホールと呼ばれる小さな穴が無数に出来てしまう。刷毛で穴が塞がらないときは、指の腹で塗料を穴の中に押し込む。

10~20分もすれば次の層を塗ることができる程度に乾く。あまり乾燥させすぎると、次に塗った層の水分を急激に奪って、小穴が無数に出来てしまうことがあるから、あまり長い間隔を置いて塗るのは良くない。体質顔料主体の塗料ならば、少し暗めの濡れ色から白に変わったところで、次の層を塗るのが良い(チタン白などのホワイトが多いと濡れ色で判断するのは難しい)。刷毛を動かす方向を変えて、2~4層塗る。キャンバスの場合、厚い地はひび割れ・剥離の原因になるので、厚くし過ぎない方がいい。

塗り終わった地塗りは、1時間もしないうちに、すっかり乾燥しているように見えるが、内部まで完全に乾燥するように、念のため数日待ってから使用する(特に板の場合はキャンバスのように裏からの通気がないから、完全な乾燥に時間がかかる)。仕上げに細かいサンドペーパーなどを使って、表面調整する。塗料が余った場合はラップで密閉し、冷蔵庫に入れておけば多少の期間は再利用可能である。

膠の層は非常に硬く、油性塗料のような柔軟性がないので、白亜地をキャンバスに塗布した場合、折り曲げたり巻いたりすると細かい亀裂が入る。特に厚い地塗りはより顕著に現れる。これは、そういうものだと思う他はない。真っ直ぐにもどせば亀裂は見えなくなるが、出来るだけ折り曲げたりせず、ロールにする場合は大きめの円筒に巻いた方がいい。

白亜地は吸収性が強いので、油彩技法の場合はインプリマトーラと呼ばれる絶縁層を塗ってから制作を始める。膠液やワニス、乾性油等を地塗り表面に薄く塗ることで吸収性を適度に調節するのである。一般的なのはダンマルワニスを引く方法だと思うが、個人的には乾性油をテレピンで薄めて非常に薄く塗るのが良いと思う。多少顔料を混ぜて色を付けたものを使うと、画面全体の色調を整える役割も果たす。インプリマトーラ無しで制作すると、地が油を吸いすぎて顔料を定着させる為の展色材まで失われてしまう可能性がある。印象派以降の画家は、艶消しの画面を求めて吸収性の地塗りを使うこともあったが、絵具層のメディウムが不足するので、保存上はあまり良いことではない。

高温多湿な日本の気候の下では、膠を使った地塗りに黴が発生しやすい。特に暗くて風通しの悪い場所に保管すると危険度が高い。

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