ランプブラックをつくる

ランプブラックは油煤を集めて作った黒で、日本の墨に相当する。炭である植物炭(ピーチブラック)や骨炭(アイボリーブラック)とは、同じ炭素ではあるものの、だいぶ性格が異なる黒顔料である。このページではランプブラックを作って、材料への理解を深めてゆきたい。

チェンニーニの書には、亜麻仁油の煙からランプブラックを作る方法が書かれている。

・・・亜麻仁油の入ったランプを用意し、ランプを油で満たし、火をつける。こうして燃えているランプを、よく拭った鍋の下におく。炎は、鍋の底から指2、3本のところにくるようにする。炎から出る煙が鍋の底にあたり、固まりとなってくっつく。少しそのままにしておいてから、鍋をとり、この顔料、すなわち煤を、紙の上、あるいは絵具壺に、何かで払い落とす。粒子のごく細かい顔料なので、練ったり挽いたりする必要はない。このように、何度か、ランプを例の油で満たしては、繰り返し、鍋の下におく。お前が必要とするだけの分量をこうしてつくる」

チェンニーノ・チェンニーニ『絵画術の書』(岩波書店)

オイルランプは写真のような簡単なものを用意した。小皿に油を注ぎ、綿糸などの芯を入れて、その先に火を灯す。芯の先の部分だけが小さく燃え続ける。

日本の墨づくりでは菜種油が使われるが、チェンニーニに従って亜麻仁油でやってみた。なお、ウィトルウィウスは松脂とあるが、松脂は激しく燃え上がり、たいへん危険ある。テレピン、ペトロールもあまりも勢い良く燃えるので危険である。芯が1つでは煤を集めるのに時間がかかるので、3本にしてみた。なお、開封して時間が経った亜麻仁油を使うと、すさまじい亜麻仁油臭が漂うので、新鮮なものがよい。食料品店で、食用亜麻仁油を買ってきた方がいい。

ランプを設置したら、その上に大きな磁器の皿を被せる。当然ながら風の吹かないところがよい。墨づくりの現場では、倉の中でこのような墨集めを大規模にやるそうだが、粉塵爆発の危険と隣合わせであろう。私は風の無い日にガレージで行なった。

かなりの時間をかけて、皿いっぱいに煤を集めたが、回収してみると下の写真の量だけであった。

ランプブラックは油楳であるからか、水と混ざってくれない。水と混ぜようとしても写真のように綺麗に分離してしまう。習字の墨と同じなのに水に混ざらないとはどういうことかと思うかもしれない。テンペラ画家などでランプブラックを水練りしようとして、うまく行かなかった人もいるのではなかろうか。

しかし、膠やアラビアゴムなどの何らかの媒材が加われば、簡単に水に溶けてくれる。写真はアラビアゴム液を少々混ぜた状態である。

試し書きしてみたが、いかにも墨らしい書き心地であった。

炭と墨の違いについてさらに詳しく知りたければ、子供向けの図書であるが、『炭と墨の実験』(さ・え・ら書房 一九九七)がお勧めである。

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