ヴァインブラックをつくる

このページでは植物を焼いてつくる黒顔料、絵画用では、ヴァインブラックやピーチブラックなどと呼ばれる顔料をつくってみる。

まず、古代ローマ時代の書である、ウィトルウィウスを参照してみる。そこでは、煤の黒(本サイト「ランプブラック」参照)を紹介し、それにつづいて炭の黒について述べている。

しかし、もしそれ《筆者注・煤の黒のこと》の必要量が間に合わないならば、期間待ちのために仕事が中断されることのないように、応急の手段が講じられるべきである。すなわち、葡萄の枝または脂気の多い削り屑が燃やされ、それが炭になったとき火が消され、次いで乳鉢の中で膠と共に摺り合わされる。こうしてできた黒色は塗装師にとって見苦しいものではないだろう。

さらに、もし葡萄酒の糟が乾かされ炉の中で焼かれ、それが膠と共に摺り合されて塗装に用いられるならば、煤の黒色よりもっと優美な色合いを呈する。しかも、よい葡萄(の糟)からつくられると黒の色合いだけでなくインディア藍の色合いも模することができる。

ウィトルウィウス

材料として葡萄の枝や、葡萄酒製造時の絞りかすが使われたようである。西洋では黒顔料の素材としてよく使われるものである。それが黒顔料に適しているというのもあろうけれども、葡萄の枝は毎年かなり剪定しなければならないし、絞りかすも大量に発生して、とにかくたくさんあったのだろう。

これを燃やして黒顔料を作ってみる。紙や木材など、何らかの有機物を燃やすと炭や灰が残る。薪を燃やしたときに、空気が充分に行き渡るようにしておけば全て燃え尽きてわずかな灰が残る。しかし適当に放っておけば、黒い炭の状態で残ることもあるだろう。ウィトルウィウスの記述では炭になった時点で火を止めて黒を得ていたようだ。けっこうあっさりした作りかであるが、そのようなものよかったのだろう。しかし、一般的な炭作りにならって焼いてみようと思う。

実は拙宅でも葡萄を何本か植えているので、剪定した枝をとっておいたのである。ちなみに、画家の古吉弘先生から苗を頂いたというありがたい葡萄である。

切った葡萄の枝をブリキ缶に入れて、カセットコンロの上で中~強火で燃焼させる。ブリキ缶の蓋には千枚通しで細い穴を開けておき、そこから燃焼時に発生するガスを逃がすようにしてある。

この程度のブリキ缶の大きさならば、15分間焼けば完全に炭になっている。

念のため、芯抜きと表面の樹皮を刮いでおいた方がいいかもしれない。焼きすぎると表皮が若干灰化していることもあり、剥がすと綺麗な炭になる。しかし、今回は表面も芯も綺麗に炭になったいた。これを乳鉢で摺れば顔料となる。

次に葡萄の絞りかすを試してみる。同じく古代ローマ時代のプリニウスから、ブドウ酒の滓の黒を見てみる。

ある人々は干したブドウ酒の滓を焼く。そして上等のブドウ酒の滓が用いられれば、そのインクはインドインクの外観を呈すると断言する。アテネのすこぶる高名な画家たちポリュグノトスとミコンは、ブドウの皮で黒色顔料をつくり、これをブドウ滓インクと呼んだ。

『プリニウスの博物誌』雄山閣,(第34巻[42])

ワインを醸造したら酒税法違反なので、葡萄を食したときに皮をとっておくことにした。それを天日干ししたものが以下の写真である。

それを焼いた例が以下の写真である。

葡萄の皮は枝と違って薄いので、どうしても焼きすぎてしまう。灰になっているところが見られる。それと、青くなってるところもある。ウィトルウィウスの「インディア藍の色合いも模することができる」というのはこのことだろうか。何回か焼いてみたが、ちょうどいい焼き加減がわからなかった。しかし、ちょっと思うところもあるので、機会があればリベンジしたい。

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