ダンマルワニスの作り方

ダンマルやマスチック等の軟質樹脂は、テレピン等の揮発性溶剤に溶かして使用することができる(この樹脂ワニスは、絵画の保護膜や加筆ワニス、油彩、テンペラ等のメディウムの素材として用いることができる)。ここでは、樹脂ワニスを作る手段として、もっとも簡単で一般的な方法、画材店等で入手できる固形のダンマル樹脂(写真右)をテレピンに溶解させて、ダンマル樹脂ワニスを作る方法を紹介する。なお、「ニス」と言ったり「ワニス」と言ったりしているが、両者に違いはない。

■用意する材料と道具類
材料:ダンマル樹脂、テレピン精油
道具:ビーカー(500ml程度)、割箸、ラップ、ガーゼ、凧糸(または豚肉用糸)、空瓶

ダンマル樹脂の塊はかなり大きなものもあるので、溶解させやすいように予め1cm前後に崩しておく。乳鉢で小さめに砕いておくという手もあるが、細かく砕くと濁りが増すという話もある(「ダンマーニスの溶剤研究」金沢美術工芸大学紀要 Vol.37 pp.1-10)。

容器として、理科実験用のビーカー、無ければガラス製の料理用メジャーカップ。それとは別に、完成したワニスを入れて置くのに丁度いい大きさの瓶を用意する。容器や道具類はよく乾燥させて湿気を取り払っておくことが肝要である。特に保護ニスなどで使用する場合は、ニスに水気が混じると、ブルーミングと呼ばれる白濁現象の原因となる。

用途によって異なるが、保護用ワニスや油彩画溶液の材料としては、70%のテレピンに樹脂30%の配合比が一般的である。市販のダンマルワニス、マスチックワニスも樹脂の濃度30%のものが多い。なお、手作業でニスを自作する場合、作業途中で溶剤が揮発するなどして濃くなる傾向がある。まずはテレピン300mlにダンマル100g弱程度でやってみるのがよいかと思う。

溶解させる際に樹脂をあらかじめガーゼ等に包んでおくと、樹脂に付着していたゴミや、溶けきらなかった残留物を容易に取り除くことができる。溶剤として、テレピン以外にも、ぺトロール、αピネンなどが利用できる。ペトロールは製品によって溶解力が異なり、テレピンより速く溶解できるものもあれば、ずっと遅かったり、うまく溶けきらなかったりするものもあるので事前に少量で試験した方がいい。この溶剤の溶解力というのが、製品によって異なって、よくわからないところがある。なお、無臭(微臭)ペトロールは特に溶解力が著しく劣るので、樹脂を溶かすことはまずできない。

ビーカーに計量したテレピン精油を入れ、樹脂塊をガーゼでくるんで、綿の糸(凧糸、肉料理用の糸など)で結び、反対側を割り箸に結んで袋の下半分が溶剤に浸かるように吊るす。容器の底に袋が付かないようにした方が、樹脂がまんべんなく溶剤に接触するので、スムーズに溶解できる。ガラス容器は確実に密閉しないとテレピンが揮発するので、ラップをビーカーの口に被せ、マスキングテープまたはセロテープ等でしっかり留めておく。なお、ラップによっては、テレピンの蒸気に反応しやすいものもあるので、そういうときは別の製品に変えた方がいい。

1~2日後には、ガーゼの中は溶けなかった粘性の残留物だけになっている。樹脂の量が多い場合は、より多くの時間を必要とする。概ね溶解したように見えたら、ガーゼの袋を取り除く。樹脂溶液は空瓶などの容器に移して密栓し、暗所に保管する。テレピンは揮発しやすいので、できるだけ手際のよい作業を心がける。テレピンは長く空気に触れることで、黄色く変質し、品質を落とすことがあるので、保管する容器も、あまり空の部分が大きくならないように、容量に見合ったサイズの瓶を選ぶとよい。

ダンマル樹脂を溶剤に溶かしてニスを作った際、溶液が濁る場合と、そうでもないときがある。実際の使用上で大きな問題にならなければ、気にすることはないと思うが、この濁りの件に関しては「ダンマーニスの溶剤研究」金沢美術工芸大学紀要 Vol.37 pp.1-10 という論文もある。

このようにして作成したダンマルワニス(またはマスチックワニス)は、主に以下のような用途がある。

画面の保護ニスとして
ダンマルワニスは、乾燥後もテレピン等の溶剤に再溶解するので、画面の保護ワニスとして使用すると、年月を経て黄変したり汚れが付着したときに、取り除いて塗り直すことができる。ダンマルワニス層は年月の経過と共に黄変するので、ニスが塗られてから数十年経過している絵は、褐色のヴェールに包まれ、退色しているかのようにも見える。洗浄すると、絵画は元の鮮やかな色を取り戻す。油彩画に保護ワニスを塗る際は、完成後半年から1年経ってからでないと、作品の健全な乾燥を妨げる。濃度の薄いものならば、完成直後の油彩画に、仮の保護ニスとして塗布できる。

加筆用ワニスとして
油絵具の場合、乾燥しきって堅くなった画面に絵具をのせると、はじいてしまうことがあるが、ダンマルワニスを塗ることで、この「はじき」を解消することができる。この「加筆用ニス」は、非常に薄い濃度で充分で、テレピンに少量のダンマル樹脂ワニスを混ぜるだけで役割を果たす。逆に濃すぎると樹脂の脆い層ができてしまい、かえって弊害をもたらす。特に自製のダンマルワニスは、制作の工程を経るうちにテレピンが揮発し、濃くなりがちなので注意。

描画用メディウムの一部として
ダンマル樹脂ワニスは油彩用のメディウムの成分と活用できる。例えば、リンシードオイルと混ぜれば、市販のペインティングオイルと同様のものができる。ダンマルワニスはテレピンが揮発した時点である程度固まるため、それが骨組みとなって仮の乾燥状態を得る。急いでいるときは、その上に絵具を重ねることができる。ダンマル樹脂ワニスは描画用メディウムの一部として使用するなら様々な利点を享受できるが、それ単体では脆く、黄変しやすく、テレピン等の溶剤に簡単に再溶解する。したがって、あまり過剰に加えるべきではない。同じ理由で、ダンマルワニスを主体にしたり、単体で描画用メディウムとするのは難がある。ただし、油絵具には既に乾性油が含まれているので、下書き段階で、濃度の低いダンマルワニスを使用することは可能。

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