鉛白の作り方

鉛白の作り方は、古くは古代ローマ時代のヴィトルヴィウス、中世ではテオフィルスなどが書き残している。壺などの底に酢を入れ、上部に鉛板を置くなどして、酸性の蒸気にさらすことにより、鉛が腐食して白い顔料を生成する。さらに何らかの方法で炭素供給すれば、より早く確実に鉛白が生成される。近世以降、バロック期には馬糞も用いていたようである。より近代的な大量生産方法では、鉛板を吊した部屋に酸性の蒸気及び二酸化炭素を供給して製造していた。現在は電気分解法で生成されており、古来の鉛白とは性質が異なるのではないか、という意見もあり、古い方法で鉛白を作ろうとする試みがされている。以下にその方法を記録しておく。

最低限必要なものは、鉛テープ、コンテナ、鉛テープを置く小さな容器、お酢である。鉛テープはネットオークションで購入できる。コンテナは製造する量などによって使用するものが異なるとは思うが、写真のようなバックルコンテナがお薦めである。大気中のさまざまの元素も必要となるようで、密閉度はむしろ高すぎない方がよい。お酢はどんなものでも反応してくれる。炭素供給源としてイースト菌を使用する。イースト菌と砂糖を混ぜて配置すれば、二酸化炭素を供給してくれる。全て配置したのが、写真の状態である。

写真の例では、イースト菌3g、その4倍の白糖を加え、お湯で溶いた。入れすぎると溢れ出すので気を付ける。この反応はいずれ収束するが、ゼラチンを2%添加することで、ゆっくりとした反応になるようだ。※二酸化炭素は重いので、この状態では鉛テープへ到達するまでの効率が悪い。ペットボトルを使ってチューブで供給するのが良いようである。

上記の配置でフタをしっかり締めて反応が進むのを待つ。なお、イースト菌の有り無し等で反応の違いを観察してみることにした。

写真は2週間後の様子であるが、左はイースト(+砂糖)の皿にゼラチンを少量添加したもの。中央はイースト(+砂糖)だけの皿(頻繁に皿の中身を新しくしてやらねばならない)。右はイーストなしの例だが反応は著しく遅い。なお、鉛白の生成は化学反応である為、その速度は気温によって左右される。寒い季節はホットカーペットなどで温めると良いようである。ちにみに酢は栄養があるので、虫が混入しやすい。特にコバエやゴキブリに注意する。

写真は3週間後の様子。このくらいになると、かるく揺すっただけで鉛白が落ちるので、それを集めて、再びむき出しになった鉛テープを酢酸蒸気に晒し続ける。途中、白かった鉛白に黒やピンクの色が付いてしまうことがあるが、原因はよくわからない。黒ずんだものはそのままにしておくと戻ってくるので、いちいち気にしないでおく。やがては以下のように鉛白を得られるであろう。

この鉛白をそのまま使用してもよいのかもしれないが、このままだと酢酸臭が強い。それに何故か若干色が付いていることがある。私はこのあと水で洗いことにしている。それほど多い水は使用しない。

乳鉢に生成した鉛白と水を入れて、乳棒で擦るようにして撹拌する。しばらく待って顔料が沈んだら、上澄みの水を別容器に移す。それを4回繰り返した。これにより水に溶けやすい酢酸鉛も排除できると考える。また、ピンクがかっていた鉛白も水洗い後に白くなったことがあった。水溶性の汚れなども取り除けるのだろう。廃液は有毒なので取り扱いに注意すべきであるが、蒸発させると僅かに鉛白が回収できる。しかしこれは酢酸鉛も含まれていると思うので、別の顔料をつくる材料にする方がよいだろう。

洗った鉛白は皿の上で乾燥させる。埃の降りてこない場所がよい。

乾燥するとこのような状態になっている。これを練るにはコツが要るので以下、手練りの工程も紹介する。

まず、水簸絵具風の形状になっているから、それを練り棒で崩したあと、手練り用展色材を加えた。手練り用展色材は、揮発油を使わずに樹脂や蜜蝋の溶かし込んだ乾性油である。

はじめはかなり粒状感があるが、粘り強く練ってゆく。一気にたくさんの絵具を練ろうとするうまくゆかない。すこしの量を大理石パレット状で広げるように練ってゆく。

上の写真のように、右のまだ粒状感のある塊から少量を取って薄く広げるように練ってゆき、練り終わったらパレットの左側に移す。これを繰り返して全体を最後に練り合わせる。

実際に使用してみたところ、かつてないほどの被覆力のあるホワイトが出来上がった。展性もよく、古典技法で重要なチキソトロピー性も確認できた。なお、鉛白は透明感があるという説明がされることがあるが、今回作成した鉛白の被覆力が非常に高いと感じられた。かつてはこれを白粉として顔に塗ったという話も聞くが、この高い被覆力を見たら、これ以上の選択肢はありえないと感じるであろう。

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