生皮を煮て膠をつくる

本ページでは生皮を煮て膠を作る試みをレポートする。

参考テキストとして、中世の職人テオフィルスとチェンニーニの書き残したものを参照する。

生皮および牡鹿の角の膠について
これが注意深く乾かされたならば、同じ生皮の同様に乾かされた切片をとり、こまかく刻め。そして鍛工の鎚で鉄床の上でこなごなに砕かれた牡鹿の角をとり、新しい壺の中にその半ばになるまで(刻んだ生皮と)配合し、それを水で満たせ。こうして、しかし少なくとも沸騰しないようにしながら、その水の三分の一が煮つめられるまで、火にかけよ。そして汝は次のように試せ。即ち汝の指をこの水で濡らし、指が冷えた時、もし粘着するならば、膠はよい。しかしもしそうでなければ、〔指が〕互いに粘着するまで煮よ。その上でこの膠をきれいな容器に注ぎ、そして再び壺に水を満たして前のように煮よ。このように汝は四度まで続けよ。

テオフィルス『さまざまの技能について』中央公論美術出版

上記からは「少なくとも沸騰しないようにしながら」という点に留意してみることにする。

第109章 山羊膠はどのようにつくり、どんなことに適しているか
これは板膠と呼ばれているもので、山羊の頭の切れ端、足、腱、その他、あちこちの皮の切れ端でつくられる。この膠は、3月か、1月のたいそう寒いときか、強い風の吹くときにつくる。きれいな水を用いて、半分以下になるまで煮詰める。そしてよく濾して、ゼラチンの製造用の平鉢または水盤のような、平たい壺に入れる。一晩そのままにしておき給え、朝になったら、それを小刀でパンのように薄切りにして、莚の上に広げ、風にあてて陰干しにする。そうすれば、上等の膠が出来上がる。この膠はのちに示すように、画家、馬具工など、たいそう多くの工匠たちにより用いられる。これは、木工その他、多くのものに適した膠であって、それが、何にどのように用いられるかについては、これから詳しく述べてゆくことにしよう。たとえば、石膏塗りに、顔料の結合剤に、リュートをつくるのに、寄せ木細工に、木工品に葉飾りを接着するのに、石膏に混ぜる結合剤に、石膏の盛り上げに、そのほか、多くのことに適している。

チェンニーノ・チェンニーニ『絵画術の書』岩波書店より

「山羊の頭の切れ端、足、腱、その他、あちこちの皮の切れ端でつくられる」そうである。

まずは素材となる動物の生皮や、腱を入手せねばならない。現在の膠産業では、レザー産業から皮の下の使用しない部位の「ニベ」というものを仕入れて、材料としているらしい。下の写真は膠文化研究会の講演1を聴講した際に見せて頂いた「ニベ」である。

しかし、ふつうはこのようなものが手に入ることはない。肉やで皮付きのものを買うか、家畜を飼うところからはじめてもよいかが、ここは普通のお店で買えそうなものを検討してみる。まず、「皮」であって、「革」ではない点に注意したい。革、いわゆるレザーは、生皮に鞣しの工程を経ているもので、使えないわけではないだろうけれども、生皮のようにはいかないであろう。

そこでペットショップから生皮を使用した思われるペットフードを購入してきた。ローハイドガムという名称であったが、ローハイドということは生皮なのではなかろうか。

その他、牛の腱、豚の耳など、さまざまの家畜の部位がおやつとして販売されていた。できるだけ加工の少なそうな見た目をしているものを選ぶとよいかと思う。前掲の「ニベ」を見せてくださった講演者の方にも聞いてみたが、材料としてこれで問題ないと言ってくださった。なお、写真には豚の蹄も写っているが、これは為に使ってみたが、まったく膠の足しにはなっていないと思う。なお、あまりにも加工された見た目のものは、ゼラチンを固めたものかもしれないので、その場合、ゼラチンを溶かしてまたゼラチンを固めたという意味のない行動になってしまう恐れがある。

乾燥した小品なので、水でしばらく膨潤させておいた。

いよいよこれらを煮てゆくわけだが、テオフィルスの「沸騰させない」という指示を意識して、グリル鍋の「保温」で加熱することした。温度は常に80℃を保っていた。しかし、噂には聞いていたが非常に臭い。これほどまでに臭い環境というのは、ありえないほどの悪臭だったので、グリル鍋をベランダに出して続行した。

数時間後、ローハイドの方はほぼ溶けていた。

溶けなかった残渣を取り除く。

とりあえず、タッパに入れて、板膠のような形状に固めることにした。このとき防腐剤を少し添加しておくと良いかもしれない。

このくらいの硬さになったら、網の上で両面から乾燥させた方が良いようだ。

2週間後の様子であるが、すっかり乾燥して、立派な板膠となっている。

最後に念のため付け加えておくと、事業として膠を製造する場合、「化製場」という施設に該当し、都道府県知事の許可が必要になるかもしれない。

  1. 膠文化研究会主催第6回公開研究会
    2014年12月13日(土)東京藝術大学美術学部中央棟第1講義室
    ○「膠と密接な皮革製造工程と当センターの取り組みについて」 ↩︎

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